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長野家庭裁判所 平成6年(少)495号 決定 1994年8月25日

少年 I・S(昭53.2.17生)

主文

少年を長野保護観察所の保護観察に付する。

平成6年少第375号傷害保護事件のうち、Aに対して爆竹で火傷を負わせた点、Bへの傷害、Cに対する傷害については、少年を保護処分に付さない。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

第1  公安委員会の運転免許を受けないで、平成6年5月3日午後3時ころ、長野市○○××番地×付近道路上において、第1種原動機付自転車(車体番号○○-××××××号)を運転した。

第2  D、Eと共謀のうえ、通行人から金員を喝取しようと企て、同月5日午前0時05分ころ、同市○○××番地先路上及びその付近において、F(当時18歳)に対し、Eにおいて、「おい、にいちゃん。」と声をかけ呼び掛けたが無視されて立腹し、「お前、俺にけんか売っているのか。おい、金出せ。」と語気鋭く申し向けて金員を要求し、同人の襟首をつかむ等の暴行を加え、少年において、Fの背後から同人の襟を掴んで同人を路上に引き倒し、更にDも加わり、こもごも首、後頭部、腹部を蹴る等の暴行を加え、現金を喝取しようとしたが、Fに抵抗され、同人の家族に発見されたことから、その目的を遂げなかった。

第3  G、H、I、D、Eと共謀のうえ、同月21日午後6時ころから同日午後8時30分ころまでの間、A(当時15歳)に対して態度が気にいらない等と因縁をつけて、

1  長野市○○××番地所在の○○市営住宅××号J方南側路上において、Gにおいて、Aの頭部、背部を木の棒で殴打し、同人の顔面を手拳で殴打し、Hにおいて、同人の左手肘部を木の棒で殴打する等の暴行を加え

2  同市○○××番地×所在の千曲川河川敷において、こもごもAの顔面を殴打し、その腹部等を足蹴りする等の暴行を加え、そのころその付近において、Eにおいて、その背部を足蹴りして同人を千曲川へ突き落とす暴行を加え

3  同市○○××番地所在の千曲川河川敷において、少年において、Aの足部を足蹴りする等の暴行を加え、Gにおいて、同人の顔面を手拳で殴打し、Hにおいて、同人の顔面を手拳で殴打し、Dにおいて、同人の頭部を両手で順次殴打し、尻部を足蹴りし、更に、そのころその付近において、Gにおいて、同人の背部を足蹴りし、Hにおいて、その頭部を殴打する暴行を加え

よって、右一連の暴行により、Aに対して全治約3週間を要する顔面打撲等の傷害を負わせた

第4  同月28日午後4時30分ころ、同市○○××番地×所在のK方北側路上において、L(当時18歳)に対し、「何逃げるんだ」等と因縁を付け、同人の足及び腹等を足蹴りする暴行を加えた

第5  前記第4と同一の日時場所において、M(当時18歳)に対し、「何ガンくれてんだ」と申し向け、握持していた木の棒で同人の左顔面及び背中を各1回殴打する暴行を加え、よって、同人に対し、左頬部、左肩部等打撲、左下顎骨皹裂骨折により約1か月の安静加療を要する傷害を与えた

ものである。

(法令の適用)

第1  道路交通法64条、118条1項1号

第2  刑法60条、249条1項、250条

第3  同法60条、204条

第4  同法208条

第5  同法204条

(平成6年少第375号傷害保護事件のうち、Aに対して爆竹で火傷を負わせた点、Bへの傷害、Cに対する傷害について、非行なしと判断した理由)

記録によれば、(一)当初のAに対する暴行は、Gが同人の態度が悪いということから、H、Iの加勢を得て、Aを痛めつけようとし、DやEがH、Iを迎えに行った後に行われたものであること(Gの捜査官に対する供述のうち他の高校生を含めてやっつけるつもりだったとの部分は信用できない。)、(二)河川敷での前記第3の3の暴行に至る一連の暴行が終了した後、少年は、Hに命ぜられ、少年宅でAの顔の手当てをすることになったこと、(三)ところが、河川敷にいた連れのだれかが、少年宅に出向いて河川敷に戻るように言ったこと、その際、何のために河川敷に戻るのかについての説明はなかったこと、(四)河川敷に付くと、Gが、今からタイマン大会をする、Hが司会だなどと言いだしたこと、(五)しかし、少年は、もともとタイマン大会を仕切るような立場になく、Aの怪我の程度からこれ以上暴行を加えることはかわいそうだと思っていたこと、少年は、通行人が来るか見張りをするというような役割分担もしていないこと、(六)BやCに対する暴行は、タイマン大会が終了した後に行われたこと、(七)少年は、タイマン大会が終了した後にGからDが持っている爆竹を持ってくるように言われたが、何のために持ってくるのかについては特に説明を受けず、普通に爆竹を鳴らして遊ぶためだと思っていたこと、(八)ところが、予想に反して、Gが爆竹を用いてBに傷害を負わせたこと、(九)少年は、Bが爆竹で火傷を負わされた後、タイマン大会の途中にGに命ぜられてファミコンを集めに行ったEを探すために河川敷を一旦離れており、GがAに対して爆竹で火傷を負わせたことは知らないこと、以上の事実が認められる。

以上の事実によれば、当初のAに対する暴行は、少年宅に手当てのために連れていかれた時点で因果の流れが終了しており(これが、今後の暴行を継続するための監禁の意味があったなどという証拠は全くない。)その後のAやその連れであるB、Cに対する暴行は、Gのタイマン大会をするという別個の動機に導かれたものであり、当初の共謀との因果関係はないということができる。そして、タイマン大会以後の共謀の有無については、そもそも捜査官が全く問題意識を持っておらず、全く証拠がない(自白もない。)のみならず、前記のとおり、少年はタイマン大会を仕切る立場にはなく、また、決闘を見物をしたいという動機があったことを窺わせるに足りる証拠もない。更に、タイマン大会終了後のHのBに対する暴行について、事前に少年も共謀していたとする証拠(自白)はないし、爆竹を用意した点についても、暴行の手段として用いることを知っていたと断定するに足りる証拠はない。

よって、平成6年少第375号傷害保護事件のうち、Aに対して爆竹で火傷を負わせた点、Bへの傷害、Cに対する傷害については、少年の共謀を証明する証拠がないから、以上の点については、少年を保護処分に付さないことにする。

(処遇の理由)

記録によれば、(一)少年は、非行性のある者と交友する中で非行性を身に付けてしまったが、どちらかといえば利用されたり、けしかけられて非行に及ぶという面があったこと、(二)恐喝未遂保護事件の現場での写真撮影の際、ピースサインを出したり、突っ張った姿勢で写真に写ったりしており(同事件の平成6年5月15日付け写真撮影報告書)、当時は内省も深まっていなかったが、観護措置決定後は内省も深まっていること、(三)一部の被害者については、謝罪のうえ被害弁償をし(保護者が立て替えた)、今後少年の給料から保護者に対して立替分を返済する予定になっていること(一部は返済済)、(四)審判廷において今後悪友との交際を絶つと約束していること、(五)保護者もタイル工の仕事などを通じて昼夜少年の教育をする意欲もあること、(六)ただ、今後の交友関係等を断ち切るためには専門家による継続的な指導も必要不可欠であること、以上の事実が認められ、以上の事実によれば、少年を保護観察に付するのが相当である。

よって、少年24条1項1号、少年審判規則37条1項を適用して少年を長野保護観察所の保護観察に付することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 和久田斉)

〔参考〕 平成6年少第375号傷害保護事件の送致書記載の事実

別紙

被疑者I・Sは、G、H、I、D、Eと共謀のうえ、平成6年5月21日午後6時ころから午後9時ころまでの間において

第一 Aに対して態度が気に入らない等と因縁をつけて

1 長野市○○××番地所在○○市営住宅××号J方南側路上において、Gにおいて、その頭部、背部を木の棒で殴打し、顔面を手拳で殴打し、Hにおいて、その左手肘部を木の棒で殴打する等の暴行を加え

2 同市○○××番地×所在千曲川河川敷において、こもごもその顔面を殴打し、腹部、腰部等を足蹴りする等の暴行を加え

3 右場所において、Eにおいて、その背部を足蹴りして同人を千曲川へ突き落とす暴行を加え

4 同市○○××審地所在千曲川河川敷において、被疑者において、その腹部、足部を足蹴りし、Gにおいて、その顔面を手拳で殴打し、Hにおいて、その顔面を手拳で殴打し、Dにおいて、頭部を両手で殴打し、尻部を足蹴りする等の暴行を加え

5 右場所において、Gにおいて、その背部を足蹴りし、Hにおいて、頭部を殴打する暴行を加え

6 前記2記載の場所において、Gにおいて、爆竹を同人の手首の腕時計の裏側に挟み込んでこれを爆発させる暴行を加え

よって、同人に対し、全治約3週間を要する顔面打撲等の傷害を負わせ

第二 前記第一、2記載の場所において、Bに対し、Gにおいて暴竹を同人の手首の腕時計の裏側に挟み込んでこれを爆発させ、Hにおいて、その腹部、足部、顔面を足蹴りする等の暴行を加え

よって、同人に対し、全治約1週間を要する右上腕部打撲及び経過観察を含め通院加療約5年を要する下顎左右中切歯外傷性歯牙脱臼の傷害を負わせ

第三 前記場所において、Cに対し、Eにおいて、その顔面等を手拳で殴打する等の暴行を加え、よって、同人に対し、全治約5日間を要する左下顎部打撲の傷害を負わせ

たものである。

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